今日、鈴木さんからザックリと作り上げた資料を提出してもらうはずでしたが、いつまで経っても連絡が無く、夕方前に
「やはり明日にして下さい。
出来ていない部分を明日ご相談させて下さい」
というメールが来ました。
嫌な予感がしたので、
「途中段階でいいから送って」
と言って見せてもらうと、ザックリどころか真っ白な資料が送られてきました。
私は鈴木さんと部署が違うので、彼のパソコンスキルや頭脳はそこまで分かりません。
今回のプロジェクトは普段の仕事ではやらないことで、鈴木さんは初体験に近く、分からないことだらけのようです。
ただ、以前鈴木さんの教育係だった高橋さんは、今回のような仕事は得意です。
私は高橋さんに「一体どういう教育をしたわけ?」と文句をつけました。
高橋さん曰く、新人時代の鈴木さんは、それはそれは自主性が無くて適当で酷かったそうです。
「アレでも大分マシになったんだよ。
俺はかなり厳しく鬼教官みたいに教えたつもりだけど、でももう途中で匙を投げたんだ。
結局、ヤツは出来ない自分ってのに危機感が無いし、こうなりたいってビジョンが無い。
やる気を持つかどうかは本人次第だから、それが無いヤツに教えても俺のストレスになるからさ。
ヤツはヤツで良いところもあるから、俺はヤツが出来ることだけ振って、頭脳を使うことはやらせない」
と高橋さんはハッキリと言いました。
今回、「パソコン関連で分からないことがあったら、高橋さんに教えてもらってね」と私は鈴木さんに言っていたのですが、
「あいつは俺を怖がってるから、聞いてこないよ」
と高橋さんは笑っていました。
この話をしている時に、側に鈴木さんよりずっと年下の山口君もいました。
ちなみに山口君は頑張り屋さんの出来る子です。
以前、鈴木さんと山口君と飲みに行ったことがあるのですが、鈴木さんは微妙に山口君にライバル意識を持っているように感じました。
私が山口君と話すと割って入って、
「俺の方がうららさんのことをよく知ってるし、仲が良い」とアピールしていて、なんだか新入りに縄張りを主張している猫みたいでした。
今思えばそれは本当に、末っ子のワガママみたいな感じで、鈴木さんは年下にお兄さんぶりたい割に、面倒見が悪いところがあります…
いつまでも末っ子で、出来なくても許されるキャラでいたいタイプ。
けど、出来ないままの自分に開き直っているようで、プライドが高いところもある。
不器用ながらも頑張り屋さんなところもあるし、テンパるとアワアワしながらも、冷静なフリをしてシッカリその場を乗り切ろうとするところもある。
そして、八方美人で愛想が良くて素直なので、初対面の人からはとても好かれるタイプの青年。それが鈴木さんです。
鈴木さんから中途半端な資料を受け取り、少し話しました。
イマイチ手順が分かっていなそうなので、とりあえず私が手伝える部分に手をつけることにし、鈴木さんにしか出来ない部分をなんとか埋めるように伝えました。
鈴木さんは申し訳なさそうな声にはなっていましたが、でも私から
「この5日間何やってたの⁉︎」
と言われたことに、ちょっと不服そうでした。
もしくは、私が途中で口出しをしたことにプライドが傷付いたのかな。
私がこんなに面倒見ようとしているのは、仕事だからなのか、好きだった男だからか、もう分かりません。
鈴木さんから見たら、まだ提出期限まで時間がある資料作り。
でも大人から見たら、現段階でこれしか出来ていないのはヤバイレベル。
高橋さんなら、今の段階でほぼ8割は完成しています。
鈴木さんはまだ4割しか出来ていない、というか、その内2割は私が作り、もう1割は元々は高橋さんが作ったデータをベースにしているものです。
きっと鈴木さんは、このプロジェクト自体にはまだやる気がありません。
私が熱心に話をして、奮い立たせているから
「頑張って期待に応えるのが人ってもんだろ」
とぼんやり思っているのかな。
「こんな俺に期待してくれてるから頑張らなきゃだけど、きっと俺は完璧には出来ない」
と思っている気がします。
こんな鈴木さんだからこそ、口先だけでも優しく、頼りになることを言ってくれるし、見捨てられない可愛げがあります。
「ゆとりですがなにか?」の主人公たちは、鈴木さんと同じ年齢です。
坂間君が茜ちゃんの為に意識を変えていったように、鈴木さんにも意識を変えるタイミングがいつか来るかもしれません。
とりあえず鈴木さんは今の彼女と付き合って、前の彼女の時程仕事を頑張らなくなりましたが…
年上の人が自分より仕事が出来るのは当たり前。
年下が頑張ってるのは見ない。
そんな鈴木さんが、どうしたら自主的に頑張るのか、それとも頑張らないのが彼の人生なのか、私にはまだ分かりません。
私はあくまで同僚だから、出来ることには限界がありますし。
私が出来ることは
「振った女に馬鹿にされたくない」
と、彼が持ち前の男のプライドを発揮して、頑張るのを見守ることです。
その為に、お姉さん目線の優しいメールを送りました。
振った女から、そんなメールをもらうって、恥ずかしいことだよ?
直接怒られるより、優しい言葉をかけられる方が、男にとっては情け無いことだと私は思います。
それでも彼が「うららさん優しい〜」としか思っていなかったら、とんだ期待はずれです。
ふぅ…あと数日で、鈴木さんがどこまで頑張れるか、楽しむしかありませんねぇ。