今日同僚にサザエさん妄想のことを話したら
「く…くだらねぇ!」
と笑われて、満足。でもその後話してみると
「ノリスケさんは絶対浮気するよね!」
「あれはする!外回りだし、新人女作家とかねぇ」
「サブローさんは、やっぱり御用聞きついでに人妻を弄ぶんだろうね」
「サザエさんより、フネとってのがありえるかも?『サザエ、ちょっとアレ買ってきて』って追い出した隙に、サブちゃんと…」
と、なかなか話が尽きませんでした。
今日は忙しくて、余り妄想は捗らなかったのですが、マスオさんの浮気に前から気付いていたカツオバージョンです。
カツオは、偶然友達の家の帰りに、愛人の家に消えるマスオさんを目撃していました。
「へー、マスオ兄さんも浮気するんだ。
まぁよくある話だし、ああいう穏やかそうな人程、平気で浮気するってイメージあるもんな」
都会っ子でクールな面を持つカツオは、驚きはしたものの「よくある話」として納得しました。
「所詮、夫婦のことは夫婦にしか分からないもんな」
その内終わるだろう、と思っていたし、内心面白がってもいました。
しかし、サザエさんとマスオさんが2人で出掛けて以来、明らかに姉の様子がおかしくなりました。
家族で食事をしていても、どこか虚ろな目で笑っています。
マスオさんは、気まずそうな、開き直ったような、そして時に冷たい目をしていて、サザエさんの顔を見ません。
両親も内心気付いている風ですが、何も聞いていないようです。
家族とはいえ、それぞれ過剰に立ち入らないのが気遣い。
余計なお世話でズケズケと踏み込むのは、東京の人は「無粋」と嫌います。
思い遣りがあるからこそ、本人が何も言うまで、聞くべきじゃない。
それに、本当に大変な状況になれば、子供が口出すことじゃない。
ただ、両親がマスオさんの浮気について口出すのも、何だか子供としては気恥ずかしさがあります。
「いざとなったら、ノリスケさんを通して探りを入れるかな?」
心の中で冷静に「よくあること」と思う自分がいます。
しかし、日々表情を失う姉を見て、カツオは気付きました。
「これは、他人の一般論のよくある浮気話じゃない。
自分の家族が、今、目の前で毎日向き合っている問題なんだ」と。
浮気の末、姉夫婦が離婚をするか、時間が経てば元通りになるか。
どちらの話もよく聞きます。
しかしいざ目の前で起こると、毎日毎日、少しずつ空気が変わるのは、異様でした。
夫の浮気で病む妻の話は、本当によくある話なのに、それが自分の姉だと、やはり他人事と思い切れない自分もいます。
ドラマのように、数分で状況が簡単に激変したりしない、現実は、そんな短時間のことじゃない。
学校で友人たちに、笑いながら
「マスオさんが浮気してるっぽいんだよねー」
と話すと、皆んな驚きつつも
「へー、本当にあるんだね。まぁタラちゃんも小さいし、その内元に戻るんじゃない?
よくある話だよ」
と慰めのような、世間話のような言い方をしました。
「だよなー」
と笑いながら、内心カツオはイラっとしていました。
「こいつらは、毎日目の前で少しずつ、自分の家族が変わっていくのを体験したことが無いから、所詮想像の範囲で、適当なことを言ってるんだ」
友人たちに悪気が無いのは分かっているし、本気で悩んでいる風に重く話す気はありません。
そんなこと真剣に相談されても、友人も困ってしまうだけです。
「これが、現実ってやつなんだな」
そう思いながら、カツオは目の前の景色が今までと違っているように感じました。
世の中や、他人のことを分かった気になって、何パターンかのステレオタイプに嵌めて考えていたけど、そのどれになるのかは当事者には分からないのかもしれない。
今まで、姉のことも、義兄のことも、よく知っていると思っていたのに、急に知らない人のように思えてきました。
ノリスケさんなりタラちゃんなり両親なり、誰かが間に入れば、何か変わるかもしれない。
でも、どうなるのがベストなのかは分からない。
「ま、なんだかんだ言っても、マスオ兄さんは血の繋がりのない他人なんだし、姉さんの肩を持つのが無難かな」
そう思いながら、晩御飯の茶の間の空気を想像して、カツオはため息をつきました。
カツオはねー、大人びたところありますからね。
面白がって首を突っ込みそうだけど、実際には空気を読んで、余計なことしなそうなんですよね。
むしろ、そういうのはワカメかな。
カツオにとってマスオさんは、数年前に突然家族になった他人だしねぇ。
そう言えば、フネがカツオとワカメを産んだのは40歳過ぎてからなんですって。
ウチの母も上の兄弟と10歳前後離れてますが、経産婦とは言え、昔の人は割と高齢出産してますよねー。
戦争で出産年齢に影響が出ていたと思うと、昔の状況は今より大変だったんだなぁと思います。
さて、明日は誰をメインに考えようかしらー。